こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第26話

「あんな重いもの持って歩いたなら、肩こってるかなと思って」 少しだけ言い訳がましい色が混ざるのは、いつもならば間髪入れずに返ってくる「結構です」の言葉がないことに羽多野も違和感を抱いたからなのかもしれない。 それはそれとして、肩を揉んでやろうかというのが今の栄のニーズを的確に捉え...
こぼれて、すくって

第25話

栄が風呂から上がると、羽多野はキッチンに立っていた。リビングには肉の焼ける芳しいにおいが漂い、急に空腹を感じはじめる。我ながら現金だがこういうときには羽多野を置いてやって良かったと思わないでもない。 羽多野はちょうどフライパンから肉を下ろすところだった。しばらく休ませるとちょうど...
こぼれて、すくって

第24話

「谷口先生、今日は、わざわざありがとうございました」 うやうやしく頭を下げてくる壮年の男に、栄もあわてて礼をする。「先生なんて、やめてください。ただ久しぶりに体を動かしたくて参加させてもらっただけで」 やや薄くなった栗色の頭髪やライトブラウンの瞳を見ればいかにもな英国人ではあるの...
こぼれて、すくって

第23話

「オーラルは?」 羽多野の挑発的な問いかけに負けん気ゆえに答え続ける栄だったが、さすがにここに至って我に返る。「……何でそんなこと答えなきゃいけないんですか」「いや、気になるじゃん。潔癖な君に何がどこまでできるのか」 この男が下衆な好奇心を持つのは勝手だが、栄がそれに付き合う筋合...
こぼれて、すくって

第22話

すっかり不味くなったコーヒーをそれ以上口に運ぶ気にもなれず、栄は手を伸ばしてマグカップをテーブルに置いた。「誰も悪くなくたって壊れるものはあるんだ。タイミングとか運とか、いろいろと。どうしようもないこともある」 栄が何も言い返さないことをどのように受け止めたのかわからないが、羽多...