こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第21話

「利用?」思わず栄が聞き返すと、羽多野はうなずいて続ける。「〈だれにとってもいちばん不幸なことがあるとしたら〉〈それはだれにもなにごとにも利用されないことである〉」 そらんじられた文句の意味がわからず栄は眉をひそめた。「読んだことある? ヴォネガット。『タイタンの妖女』は名作だ」...
こぼれて、すくって

第20話

まぶしくて目が覚めた。なぜだか部屋のブラインドが下りておらず、朝の光がさんさんと栄の顔に降り注いでいる。 まぶたが重くて、頭も重い。とりあえず今が何時であるかを確かめるためサイドテーブルに置いてあるはずのスマートフォンに手を伸ばすが、そこにはなにもない。いや、スマートフォンどころ...
こぼれて、すくって

第19話

「……っ」 ぐっと奥歯を噛みしめなんとか声は殺したものの、おののく体までは隠せない。吐精に合わせて何度かびくびくと腰を震わせたところで栄は膝からベッドに崩れ落ちた。みっともない姿勢のまましばらく荒い息を吐き続ける。射精なんてローティーンの頃から何百回、何千回とやってきたことなのに...
こぼれて、すくって

第18話

顔ごと上半身をマットレスに伏せて腰だけを高く持ち上げた格好。マウンティングされた動物さながらの、栄にとってはこれまで経験したことないほどの屈辱だった。 ぴったりと押しつけられた体の熱さに、それでもあらがおうとする栄を羽多野は軽くいなす。「剣道に水泳ね。確かに俺は竹刀を持った谷口く...
こぼれて、すくって

第17話

羽多野が風呂場に向かう足音やドライヤーを使う音は聞こえていた。風呂上がりの髪はほんの少し湿って、スウェットとTシャツに着替えている。 怪訝な顔で栄は羽多野を見た。「……何か用事ですか」 例えば歯磨き粉がなくなったとか、寒いのでもっと厚い布団が欲しいとか。そうでなければわざわざ羽多...