こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第11話

「で、その知り合いを二週間も泊めてるの? いやあ、谷口さんも人がいいなあ」 プラスティックのフォークを手に呆れ気味に目を丸くする久保村に向かって栄は取りつくろった笑顔を浮かべる。「でも確かにロンドンの宿泊は高いですからね。うちには使っていない部屋もあるから、まあいいかなって」 こ...
こぼれて、すくって

第10話

顔は見えないから、羽多野に聞かせるためというよりはほとんどひとり言のような気持ちで栄は続ける。「亡くなった俺の祖父は多少名の知れた法学者で、親父は日本橋で弁護士事務所をやっています。有名な経済事件の弁護を担当したこともあって……そういう家系だからうちの実家、近所でもちょっと有名ら...
こぼれて、すくって

第9話

そのままバスルームに向かい羽多野の分のタオルと歯ブラシを出すと、栄は顔だけ洗ってすぐに自分の寝室に引き上げた。 上着を脱ぎ捨てると糸が切れた操り人形のようにベッドに倒れ込む。汗ばむ陽気の中を一日中出歩いたのにシャワーも浴びず、着替えもせずにベッドに横になることなど普段の栄からは考...
こぼれて、すくって

第8話

こんな気遣いをされるならば、いっそいつものように直接的に拙い案内や言葉をからかわれた方が良かったとすら思う。哀れまれることは、馬鹿にされることよりはるかに栄のプライドを傷つける。 羽多野の態度は面白くないものの彼に悪気がないことは理解しているし、さっきのあれは言ってみれば栄が助け...
こぼれて、すくって

第7話

悪い予想は的中し、栄はその場に崩れ落ちそうになるのをなんとかこらえた。「聞いていませんけど、そんな話」「なんだかずっと機嫌が悪いから、切り出しづらくて」 いけしゃあしゃあと口にする言葉を信じることなどできない。「俺の機嫌を気にするような繊細さがあれば、そもそも無理やり観光に連れ回...