こぼれて、すくって

こぼれて、すくって

第56話

市街地からは離れた住宅街の一角、休日午後の店内は客入りも半分に満たずのんびりとした空気が漂っている。そんな中で探り合うような緊張感に包まれたこのテーブルは明らかに異質だ、栄はそんなことを考えていた。「ええと、どこからお話すればいいでしょう」 口を開きはしたものの、リラはどう話をす...
こぼれて、すくって

第55話

栄からの唐突すぎる依頼に、四ノ宮はあからさまに面食らっていた。かといって正直に理由を告げることもできないので栄は苦しい交渉を予想した。「過去の仕事の関係で羽多野さんと連絡を取りたがっている人がいて、でも秘書を辞めて最近では党にも顔を出していないようなんです。なのでどうにか連絡がつ...
こぼれて、すくって

第54話

話の流れでトーマスとアリスから夕食に誘われたものの、栄は丁寧に断って帰宅した。楽しく会食という気分にはなれないし、それは多分彼らも同じだろう。 羽多野が面会に行くか悩んで――おそらく会わないままだった相手が誰なのか。アリスも、羽多野や栄を気にする気持ちと職業意識とのあいだで板挟み...
こぼれて、すくって

第53話

「アリスが病院で働いているという話は前にもしましたよね」「うん、聞いたけど……」 アリスが市内の病院に勤務する看護師だということは目新しい話ではない。最初に会ったときにそのように自己紹介されたし、普段のトーマスとの会話の中でも「今日は彼女が夜勤なので」といったやり取りは頻繁だった...
こぼれて、すくって

第52話

「どうかしたの? 谷口さん。なんか悩みでもある?」 黙り込んでしまった栄の意識を確かめるように、久保村が目の前で手をひらひらと振った。弾かれたように顔を上げ、栄は取り繕うように笑った。「すみません。そうですよね、いろんなパターンがありますよね。いや、そういう人が周りにいるんだけど...