恋で死ぬ。かもしれません

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40. 冷や水

目を覚ましたアカリは腰の重苦しさにほっと安心する。腰の重さは、眠っている間に蒔苗に抱かれたことの証だ。最初はあんなに嫌だった後始末をしていない中出しすら、今のアカリにとっては蒔苗の情熱を思い起こさせる甘い痕跡だ。ときには蒔苗が激しく自分を抱いたところを思い浮かべて、そのままベッドの上で自慰に耽けることすらある。寝室のクローゼットを開けると扉の裏側に大きな姿見がついている。アカリは裸のまま鏡の前に立ち自分の体のあちこちを確かめる。キスマーク、噛み跡、引っ掻き傷。そのひとつひとつを確認し、昨晩の行為を思い浮かべてみる。それだけで腹の奥に熱が溜まり鏡に映るペニスがピクリと震える。
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39. 秘密の重さはどのくらい

秘密なんて、ひとつあれば十分だ。「なのに、なー……」アカリは大きくため息を吐く。長年「自分はゲイである」という大きな秘密を背負ってきてそれだけでも十分重荷なのに、ここ最近は続けざまに隠さなければいけないことが増えすぎだ。蒔苗との関係。これは絶対に誰にも言えない。ただし蒔苗自体があんな人間なので、普通にしてさえいればまずバレる心配のない秘密ではある。
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38. 寝覚めは最悪

月曜の朝、アカリの寝覚めは最悪だった。今週は睡眠薬も飲んでいなければ、寝ている間に体を弄ばれてもいないのに――というか、むしろそれがなかったせいなのかもしれない。眠りが浅くてずっと変な夢を見ていた。内容ははっきりと覚えてはいないが、蒔苗と百合子とマークと赤ん坊が出てきたような気がする。スマホを手にして時計を見ると、まだ大学に行くには時間に余裕がある。そして、昨晩送ったアカリのメッセージに、蒔苗からの返事は来ていなかった。
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37. 男と女の厄介

「……は?」あれ、今、妙なことを耳にした気がする。百合子の言葉があまりに想定外のものだったので、脳が受け入れることを拒否したようだ。しかし聞き返すアカリに、もう一度百合子は繰り返す。「わたし、妊娠してるみたいなの」妊娠。もちろんその言葉の意味をアカリは知っている。その事象がどうやったら起きるのかも知っている。しかし――百合子は自分と同じ大学三年生の二十一歳。やることはやれる年齢だし、もちろん実際にやることをやっているのだろうが、いざ「妊娠」と言われるとその言葉の重みよりも現実離れした感覚が先に立つ。
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36. 俺が泣かせたわけじゃない

「あーもう、本当タイミング悪いんだから」ぶつくさ言いながらアカリは百合子との待ち合わせ場所に向かう。百合子の呼び出しで蒔苗との一夜を邪魔されたことは当然面白くない。蒔苗が帰ろうとするアカリを一切止めなかったことは、さらに面白くない。