うつくしいあし

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第37話

「ほら、あのカピバラぐっすり眠ってる。かわいい!」 はしゃいだ声は近くから聞こえているはずなのに、遠い。視界に入っている巨大なネズミのような動物の姿にも焦点を合わせることができずに、ただ虚空を眺めていた。「……土岐津さん?」 返事がないことを怪訝に思ったのであろう幸乃に名前を呼ば...
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第36話

金曜の帰りは、嬉しさと不安の入り混じった何ともいえない気分だった。 その日の昼間、こそこそと近寄ってきた星野から「さっちゃんとうまくいってるみたいですね」と小声でからかわれた。嫌ではない。ただ、大丈夫だという確信が持てないのだ。戸沢幸乃に対する好意が育ちつつある反面で、ふとした拍...
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第35話

合コンという名目で実質一対一で引き合わされた次の週に、ぼくは戸沢幸乃とふたりきりで食事に出かけた。次を誘うのはもっと簡単で、二度目にふたりで会ったときにはすっかり打ち解けた雰囲気になっていた。 幸乃のおすすめだというベトナム料理店は、テーブルにはビニールのテーブルクロス、壁にたく...
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第34話

時計を見ると、夜八時を回っていた。 ただでさえ夜型の多い大学生で、しかも卒業年次の学生たちの研究にスパートがかかる時期なので室内にまだ人は多い。だが、慣らし運転中のぼくは今月いっぱいは遅くとも九時前には家に戻るよう決めていた。事実、半日以上の長い時間義足をつけたまま生活するのには...
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第33話

残暑がようやく和らいだ頃、ぼくは正式に復学した。 生活が荒れたせいでいっとき崩していた体調は、完全に元通りになるまでに思ったより長い時間がかかった。この体では、ほんの少しの不摂生に大きな代償を払わなければならないことを知ったという意味では、あれもまたいい経験だったのかもしれない。...